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令和5年予備試験憲法①

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問題文を読んで最初に考えたこと

本日は、令和5年予備試験憲法を解説したいと思います。

この問題では、Xは、自らがインタビューした乙(元甲社の従業員)が、甲から企業秘密を漏洩したとして損害賠償請求を提起されたため、証人尋問に呼ばれたが、民事訴訟法197条第1項第3号の職業の秘密に該当するとして証言を拒んでいるところ、Xの憲法上の主張について問われています。

まず、私が考えたのは、Xの証言拒否が憲法上で保障されるなら、必然的に民事訴訟法197条第1項第3号の要件を満たすことになるはず(憲法上の権利を侵害する態様の民事訴訟法の規定があったらそれは憲法違反だし、そうであっても合憲限定解釈をしてXの証言拒否が民事訴訟法197条第1項第3号の要件を満たすということにするはずなのでどちらにしても憲法上でXの証言拒否が認められることのみを考えればいい)なので、民事訴訟法197条第1項第3号というのは本問ではどうでもいいことだなと考えました。

次に、問題文中で気になったのは、Xは、乙に対して、「あなたが甲の行為を黙認することは、環境破壊に手を貸すのも同然だ。保身のためなら環境などどうなっても良いという、あなたのそんな態度が世間に知れたら、エコロジー家具の看板にも傷がつく。それでいいのか。」などと乙が黙っているならば乙の工房経営が悪化する可能性があることをほのめかしていたことです。このような言葉が問題文にあるのは100%意味があります。おそらく、これをどのように憲法論の中で構成するか、意味づけるかが答案の出来不出来に大きく関係すると思われます。Xはこのような乙を若干脅すような行為をしていたのであるから、Xの報道の自由又は取材の自由に基づく主張は弱くなるはずなのです。そうでないと、辻褄が合わないからです。それでは、どこでXの主張が弱くなると考えるのでしょうか。これは、具体的な事実なので、おそらく、当てはめでつかうのだろうと思いました。もっとも、この時点では、まず、どの条文が本問で問題となるかを確定させなくてはいけないと考え、このことは後回しにしました。

どの憲法条文の問題となるのか

次に、Xが証言を拒否しているのは、憲法上では、報道の自由、取材の自由、消極的表現の自由(憲法21条1項)のどれかの問題か?、又は思想良心の自由か?(19条)、Xは職業の秘密に該当するから証言拒否しているのだから営業の自由も関係あるのか?(22条1項)といったことを考えました。そこで、どの憲法上の権利によりXの証言拒否が保障されるかを考えていきます。

憲法19条の思想良心の自由の保障範囲は、信仰に準じる世界観、主義、思想(信条説)と考えられるので、本問で乙が甲の営業の秘密を漏らしたかどうか(Xが乙から甲の営業の秘密を聞き出したか)は、19条の保障は受けられないでしょう。Xの世界観とかは関係なく、Xと乙との会話内容(ジャーナリストが被取材者に取材した内容であったとしてもそれはXの世界観自体を証言しろいうことではなく、質問及び返答の内容を証言しろというにすぎない)が本問の証言拒否の中身だからです。

そして、ここまで考えてきて、ジャーナリストであるXが取材した相手の発言を言いたくないという本問の事実関係は、報道の自由又は取材の自由(消極的表現の自由ともいえると思いますが、判例はこのような問題は報道の自由や取材の自由として論じており消極的表現の自由という構成はしていないので)への侵害の問題と位置づけるのが、判例の考え方であったことが頭に浮かびました。22条1項は今回は特に関係なかったですね。もっとも、最初の段階では色々なことが頭をよぎるのでそれを整理していくのが大切です。

ここまで考えて、確か判例では、取材内容を発表した後に報道機関の取材テープを提出させた、差し押えたという事案では、報道の自由への侵害はなく、将来の取材の自由への侵害があるとしていたので、本件は、報道の自由ではなく、取材の自由の問題として構成しようと思いました。そして、後は、判例の比較衡量の基準に従い、問題文の事実を当てはめればいいと思い、規範定立のための判例を想起しました。

規範定立について

本件で使えそうな判例として何があったか考えました。
報道の自由・取材の自由に関する正確な規範や考慮要素を学ぶための重要判例として有名なものとして、博多駅テレビフィルム提出命令事件、日本テレビビデオテープ押収事件、TBSビデオテープ押収事件がありますので、これらの判例について解説していきます。これらの判決は、全て、刑事裁判において、裁判所からの提出命令又は検察、警察からの差押えがテレビ局の取材ビデオテープに対してなされ、比較衡量の基準によって、裁判所の提出命令又は検察、警察の差押えは正当と判示された判決です。
これらの判決では、対象となる犯罪の性質・内容・軽重等及び差し押さえるべき取材結果の証拠としての価値、ひいては適正迅速な捜査を遂げるための必要性と、取材結果を証拠として押収されることによって報道機関の報道の自由が妨げられる程度及び将来の取材の自由が受ける影響その他諸般の事情を比較衡量すべきとされています。これは、報道機関側の不利益と公正な刑事裁判を行なう利益とを比較衡量しているということだと思います。これらの判例は、刑事訴訟において、テレビ局が録画したビデオテープが提出命令がなされたといった場合なので、上記が考慮要素として上がっていますが、これは、報道機関側の受ける不利益と裁判において守られるべき利益を比較衡量しているというのが本質だと思います。そして、それを本件に即して考えると、報道機関側の事情は、本件の報道機関の社会にとっての重要性、本件の報道内容、報道目的の重要性、報道方法の重要性、取材方法の重要性、取材態様の正当性、それに対してどれだけ大きな侵害があったのかです。そして、裁判側の事情は、その裁判の重要性と本件の証人尋問の証拠としての重要性・不可欠性です。

報道目的という要素についてですが、TBSビデオテープ押収事件では、報道機関は暴力団の実態を国民に知らせるという報道目的でビデオテープを採録したのであるから報道機関の立場を保護すべき利益は大きいとの反対意見がありました。このような意見からも分かるように、報道機関の報道目的が真摯なものであることは重要な考慮要素です。これは、反対意見ですが、論文で参考になりそうな考え方はこだわらずに使っていこうと思っています。

裁判の重要性についてですが、前述した判例において、捜査機関の差押命令と裁判所の提出命令では、裁判所の提出命令の方が優越した利益があるという考え方があるようです。また、刑事裁判と民事裁判では、一般に刑事裁判を公正迅速に行なう利益は、民事裁判の利益より大きいという考え方もあるようです。このあたりも判例では、区別をしているとはいえないかもしれませんが、考える上での視点として持っておくのが良いと思います。

当てはめについて

まず、報道側の守られるべき利益について検討します。
本件の報道機関の社会にとっての重要性として、Xのように、記者クラブに属さずにフリージャーナリストとして言論活動を行なうというメディアは、組織に縛られて活動するジャーナリストとは違った側面から取材活動ができるという意義があります。そして、Xは、動画サイトにて取材した内容を発表し、若い世代から注目されインフルエンサーとして認識され、ノンフィクションの著作を発表するにいたったという経歴の人物であり、これからの社会にとってメディアの一角を担う有用な人物です。Xは、実際に、マスコミ各社に先駆けて甲社に関するスクープ動画を上げることに成功しています。
次に、本件の報道内容の重要性として、SDGsに積極的にコミットしているとされる甲社が環境破壊に加担しているという疑惑があることです。これは、社会一般にとって関心のある重要なニュースといえるでしょう。
報道目的の重要性としては、Xは、主に環境問題について取材を行っており、甲への取材もSDGsに積極的にコミットしている家具メーカー甲がC国での森林の乱開発に加担しているのを告発するという純粋なジャーナリストとしての使命に基づく活動として行っているといえます。特にXが不当な利益を得ようとしたような記述もありません。Xの報道目的は、正当なものと考えられます。
報道方法の重要性としては、動画サイトで動画を投稿するという報道方法が現在の社会にとって重要であるといえます。若者はテレビよりもインターネットを見るようになっており、動画サイトのようなスタイルのジャーナリズムは社会での重要性が増していき、その数も今後いっそう増えていくと考えられます。

Xの報道の自由・取材の自由のマイナス要素としては、Xが次のような取材態様をしていることです。Xは、乙の工房に通い詰めたばかりか乙が家族と住む自宅にまで執拗に押しかけ、甲の環境破壊を黙認するような態度が世間に知れたら、乙の経営する工房に悪影響があるとほのめかすような過激な取材をしていたことでしょう。しかし、Xは、記者クラブに参加できず、それでも意味ある報道活動をしようと思うのであれば、ただ待っていても情報はもらえないのであるから、執拗な取材をしてしまっても仕方がないともいえます。また、Xは、乙が特定されないように動画に加工を施したり取材対象者にも一定の配慮はしています。

これらの報道に対する侵害としては、Xが証人尋問に呼ばれると今後のメディアの取材活動が難しくなり、特にフリージャーナリストは記者クラブに属していないので情報の取得ルートがいっそう制限され活動が困難になるおそれがあることです。

次に、裁判において守られるべき利益について検討します。
裁判の重要性としては、本件は刑事裁判ではなく民事裁判であり、裁判の重要性は一般論としては刑事裁判には劣ると考えられそうです。
しかし、そのような一般論だけでなく、森林破壊が国際的に強い批判を受けているC国から原材料となる木材を輸入していると思われる甲から甲を退職した乙への守秘義務違反を理由とする損害賠償請求という裁判の重要性、正しい判決のためにXを証人尋問する必要性、Xの証人尋問の証拠としての不可欠性といったものを考慮することが必要です。
まず、甲には正当な民事裁判を受ける権利が保障されています。そして、Xの動画は反響を呼び、各マスコミの後追い報道が起きるような状況となっており、乱開発による森林破壊に加担したとして甲の商品の不買運動が起こる可能性があると問題文にあるので、甲には損害が生じているといえ、甲の受けた損害を回復するためには、甲が裁判を受けることは現実的にも必要であるといえます。もっとも、甲が上記のC国から木材を輸入しているのは、おそらく事実であると考えられ、その内容からしてもさほど多額の損害賠償義務が認められるとは考えにくいです。したがって、本件の裁判の重要性は、少なくとも判例の刑事裁判を適正迅速に行なう利益よりは認められないと考えられそうです。
次に、Xを証人尋問することが必要か、別の証拠や別の手続きでは代用できないのかといった点についてですが、事実としてXが乙を取材し、Xは、乙は甲がC国から原材料を輸入していると語っているインタビュー動画を作成、投稿していますので、Xに事情を聞くことは意味があります。また、民事訴訟において証人が虚偽の証言をすると偽証罪が成立する可能性があり、証人尋問はXに法廷で真実を証言させるために有効な方法であるといえ、さらに、証人尋問と同等の効果を上げる証拠方法は考えにくいといえます。したがって、裁判の重要性は若干低いものの、Xの証人尋問の必要性、不可欠性はあるといえます。

本件では、報道機関側の不利益と本件の民事裁判において証人尋問を行なう利益では、報道機関側の不利益のほうが大きいと判断しました。判例では、公正な刑事裁判を迅速に行なう利益が、報道機関の持つ証拠を提出するという報道の自由・取材の自由への侵害よりも優先しました。しかし、本件の甲から乙への守秘義務違反に基づく損害賠償請求訴訟は、刑事裁判と同等の利益は認められないと考えたからです。また、フリージャーナリスト本人が、動画投稿を行った内容について証人尋問に呼ばれるのは、取材の自由への萎縮的効果が非常に大きいと考えました。これらから、Xの本件での証言拒否は認められると考えます。

まとめ

今回の問題分析では、きれいに使うべき判例の規範を思い出して、次に、問題文の事実を当てはめの中でこれはこっちの事情として使おうとかこれは逆側の事情として使おうとかはできませんでした。行ったり来たりして構成することになってしまいましたが、このくらいが普通の思考回路だと思います。問題文の事実関係から使うべき憲法条文を探し出し、どの規範が適切か考え、その後に、当てはめでの事実の使い方を考えるしかないので、問題文の事実と憲法の知識を行ったり来たりするしかないと思います。行ったり来たりしながら全体の構成をきれいにしながら書くべきことを落とさないようにするのが論文作成だと思います。

今回は、自分なりに問題分析を行いましたが、実は、本問と類似の判例が判例100選にありましたので、次は、その判例を解説し、その次に答案作成をしてみたいと思います。

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