MENU

令和5年予備試験行政法①

目次

設問1⑴

本問を読んでまず思ったことは、これは、競業事業者間の争いであり、一般的に、原告適格で問題となる誰かに処分をしたときに別の第三者に害悪が及んだため、その第三者が取消訴訟を提起するというケースとは少し違うということです。本問のDとCの関係は、一つの市の仕事を取り合う関係であり、直接的な影響がある場合が多く、原告適格が認められやすいケースではないかと考えました。

従来からの、原告適格の考え方は、根拠条文がどのような利益を保護しようとしているかを根拠条文を考慮し、さらに、その関連条文を根拠条文との関係性が強い順番に考慮して、根拠条文が保護しようとしている利益がどのようなものか考え、それが一般的な公益にすぎないか、個人の具体的な利益として保護しようとしているといえるか、どの範囲までならばげ原告適格を認めてよいのか、といったことを順番に考えて、その後に、当てはめをするといったものです。

しかし、本問では、そのような考え方で考えると上手くいかないと考えます。なぜなら、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「法」という。)が目的としているのは、どう考えても、廃棄物の処理運搬を適切に行い、住民の生活環境を適切にすることですが、本問のCは事業者なので、住民として生活環境の利益が害されるという主張は、おかしいはずです。つまり、本問のCの主張は、法が想定する利益からは認められないはずです。

ところが、事業者Cにとって、今までは、市は、B、Cの2社に一般廃棄物収集運搬業の許可を与えてこれを行わせ、大幅な変動がない限り、新たな許可は行わないものとする、といった法第6条の一般廃棄物処理計画に関しての計画(旧計画)を策定しており、B、Cの2社は、それぞれ担当区域を決めて安定的な経営をしてきたという状況において、Dが新規参入をしてきたのです。これは、新A市長が、競争性を確保するため、上述のB、Cの2社体制と新たな許可をしない旨を削除し、浄化槽の設置件数の推移に応じて新規の許可をするといった新計画を策定した後のことであるが、Cにとっては、極めて厳しいことです。また、Dの代表者はBの代表者の弟であり、Cとしては、旧計画時の安定した立場を奪われただけでなく、実質的には、BとCとの仕事の配分をBに有利に変更されたといったようにも考えられ、納得がいかないものと思われます。これらの事情から、どうすればCの利益を保護できるのか、を考える必要があります。

新A市長の計画の変更とDに対しての一般廃棄物収集運搬業の許可を個別的に考えるのではなく、行政計画の変更とDへの許可を一連の行為としてみなくてはCの不満を法的構成とすることはできません。したがって、これらを一連の行政行為として考えるという前提で、Cに原告適格が認められないかを考えます。

その上で、法的には認めにくいと考えられるCの事業者としての利益をどのように考えるのかが重要です。とりあえず、通常の原告適格の処理手順で考えてみます。

原告適格を考えるときは、まず、処分の根拠条文を見るのが原則です。それは、法第7条第1項です。しかし、第7条第1項を見ても、第7条第1項自体がどのような利益を保護しようとしているかはよく分かりません。次に、第7条第1項に関連して何か具体的な文言がないかを探してみます。そうすると、第7条第5項1号において、「当該市町村による一般廃棄物の収集又は運搬が困難であること」という要件や、2号の「その申請の内容が一般廃棄物処理計画に適合するものであること」、第3号の「その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合するものであること」といったあたりが注目できます。そして、第7条第5項は、第7条第1項の許可をできない場合を規定しているのでこれは、広義の根拠条文といえます。広義の根拠条文といえる第7条第5項は、原告適格の判断において重視することができるものです。そして、第7条第5項各号がいっているのは、1号は、市町村だけでは廃棄物の収集・運搬が困難となる場合であること、2号は、申請の内容が当該市町村の一般廃棄物処理計画に適合すること、3号は、申請者の廃棄物処理の能力が当該市町村の廃棄物処理をする上で十分なものであること、といったことです。これらがいわんとしていることは、廃棄物処理を民間に任せる必要性があり、その民間事業者が十分な処理能力を持っており、申請者の申請内容が市の一般廃棄物処理計画と適合するようなものである必要があるということです。まず、1号の市町村だけでは廃棄物の収集・運搬が困難となる場合であることという要件は、市は、浄化槽運搬の収集運搬を民間に任せてきた経緯があり、市自体がこれらの業務を自ら行うことは想定されないと思われるので、特段の考慮は不要と思います。次に、2号及び3号に関してですが、申請者である民間事業者が十分な処理能力を持っており、申請者の申請内容が市の一般廃棄物処理計画と適合するようなものである必要があるということです。これは、法1条の廃棄物の処分等を適正に行い、生活環境を清潔にするという法全体の目的を考慮すると、住民の生活環境を清潔にする内容の一般廃棄物処理計画を十分に遂行できる民間事業者を選ぶことを法第7条第5項は求めていると思われます。

また、問題文中に、既存の一般廃棄物収集運搬業者によって適正な収集及び運搬がなされていることを踏まえて法第6条の計画が策定されている場合は、新規の一般廃棄物収集運搬業の許可申請を法第7条第5項第2号の要件を充足しないものとして不許可とすることが適法と解されることを前提にするとされています。つまり、旧計画時に、BとCとの2社体制において、A市の浄化槽汚泥量の2倍の収集運搬能力が確保され、適切な収集運搬体制が維持されていたので、新たなDの申請は、法第7条第5項第2号の一般廃棄物処理計画に適合しないといえ、却下されるべきものといえます。そうだとすると、法が保護しようとしている利益であってCの利益といえるものは、どのようなものと考えるべきでしょうか。

問題文の前提を含めると、旧計画時のCとBには、独占的にA市内で市から廃棄物処理事業を請け負う権利があったといえると思います。しかし、これは、あくまでも、事実上の利益であって、法的利益とはいえないように思えます。これをどのように答案に表現するかは非常に難しいと思います。

答案で表現するならば、市が適正に定めた一般廃棄物処理計画において、A市内で市から廃棄物処理事業を請け負う権利を独占的に与えられた事業者は、その計画を十分に遂行している限りは、市内の廃棄物処理事業に関して独占的に行う法的権利があるとして、原告適格を認めることが考えられます。


設問1⑵

訴えの利益とは、原告が取消訴訟で勝訴することによって現実に救済される法的利益を有していること(取消判決によって原告の具体的な権利利益が客観的に回復可能であること)をいいます。

本問では、令和4年3月31日が経過し、本件許可は更新されています。これに対して、A市は、本件許可は失効しているので、訴えの利益は消滅していると主張しています。これは、本件許可の効力はもうなくなっているので、取消訴訟を提起しても取り消すべき法律上の効果が存在していないことをいっているものと思われます。しかし、本件許可は更新されていますので、法的な効果は現存しており、取り消す実益はあると考えるのが通常です。それでは何が問題なのかというと、更新の前後で本件許可の法的意味が変わっているならば、更新前の取消訴訟によって更新後の許可を取り消すことはできないと考えられるので、更新前と更新後の本件許可の意味を考える必要があると思います。

設問2

法第7条第5項第2号及び第3号に関して、Cの主張する違法事由としては、どのようなものがあるのか、を検討します。

そもそも、違法事由の主張として、まず、法的要件に裁量がある場合とない場合を区別するのが通常です。
裁量がない場合とは、法的要件をある程度一義的な規範とできる場合といえると思います。
それに対して、裁量がある場合とは、法的要件を形式的に満たしたとしても、別の事項との関係で要件を満たしたとはいえないという認定をする場合のように要件を一義的な規範とすることが難しい場合(一般に言われる言い方にすると行政庁に技術的専門的裁量がある場合)が考えられます。

前述のように、行政計画の変更とDの代表者がBの代表者の弟であるといったことが本件でのCの具体的な不満なので、これをそれぞれどの条文で主張するかを考えなくてはいけません。

そして、法7条5項2号は、「申請内容が一般廃棄物処理計画に適合すること」であり、法7条5項3号は、「申請者の能力がその事業を的確に、かつ、継続して行なうに足りるものとして環境省令で定める基準に適合するもの」という要件です。

法7条5項2号は、一般廃棄物処理計画の策定及び内容の変更についても争いうると考えられるところ、行政計画については、一般には広い裁量が認められます。したがって、広い裁量を前提としても、裁量の逸脱濫用があるといえるか、又は、本件では、裁量が広くないという主張をすると思われます。
本件では、旧計画を策定しており、B、Cの2社は、それぞれ担当区域を決めて安定的な経営をしてきたという状況があり、また、浄化槽の汚泥について発生量と処理量の減少が見込まれるといわれていました。
それに対して、新A市長は、浄化槽の汚泥について発生量と処理量の大幅な増加が見込まれ、廃棄物収集運搬業の新規参入を認めるといった計画変更を行っています。この計画変更が裁量の逸脱濫用として違法となると主張するのが原告の立場です。

法7条5項3号は、一言でいうと、新規参入者の事業能力が市の廃棄物処理計画を任せるに足るものであることを求めており、それは、純粋に十分な技術力があることをいっていると思われるので、行政庁に裁量があるわけではなく、一義的な規範に具体化することができると思います。さらに、廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(以下「規則」という)第2条の2は、法7条5項3号を具体化した行政規則であり、規則では、運搬施設、知識、技能、経理的基礎といった要素を定めています。これらの要素を勘案して、廃棄物処理計画を任せられるだけの事業能力があることが要件といえ、これは、技術的な評価が必要なので、一定の裁量はあるといえますが、その裁量はあくまでも技術的な分野においてのことであり、そこまで多種態様な要素を勘案する訳では無いといえます。
したがって、法7条5項3号は、裁量が広いとはいえず、一義的な規範として具体化することができると考えられます。

そして、Dの代表者がBの代表者の弟という事情は、法7条5項3号との関係では、Dには、個別に見て、事業能力や経理的基礎はなく、実質的には、Bの一部であるといった主張をすることができると思います。

まとめ

本問の難しいところは、問題文の事実を使おうとしたときに、講学上のどの部分で使うことができるのか、また、廃棄物の処理及び清掃に関する法律のどの要件との関係で書くことができるのかがかなり分かりづらいことです。この年の行政法はかなり難しい方だと思います。次回は、答案において、講学上の順序の中で、本問の事実を使うとどうなるかを書いてみます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメント一覧 (3件)

コメントする

目次