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刑事訴訟法判例100選 2 職務質問のための停止・留め置き(最高裁平成56年9月16日第三小法廷決定)

目次

事案

被告人が駐在所に意味不明な内容の電話をしたことなどから、覚せい剤使用の疑いがあると判断され、11時10分ころ、警察官が被告人の運転車両を発見し職務質問をしたところ、被告人が素直に職務質問に応じずエンジンを空ふかしたりハンドルを切るような動作をしたために、警察官は、被告人車両のエンジンキーを引き抜いて取り上げた。

11時22分ころ、警察署から現場の警察官に被告人が覚せい剤取締法違反の前科4犯であるとの連絡が入った。

そして、11時33分ころから17時43分ころまでの間(6時間ほど)、警察官は被告人に警察署への任意同行を求めたものの、被告人は自ら運転することに固執し、警察官の提案する方法で任意同行に応じることを拒否し続けた。

15時26分ころ、警察官が被告人の身体への捜索差押令状及び強制採尿令状を裁判所に請求し、17時2分ころには、各令状が発付され17時43分ころから被告人の身体に対する捜索が開始された。

その後の捜査の中で、被告人の覚せい剤の使用の事実が発覚し第一審で有罪判決が下され、弁護側は控訴上告したが、棄却されたという事案である。

弁護側としては、警察官の被告人の現場での留め置きが違法であるとの主張をしていおり、止め置きの違法性が重要な争点であった。弁護側は最終的には違法な捜査から入手した証拠(被告人の尿等)が違法収集証拠排除法則により証拠能力を失うと主張したかったので、留め置きの違法性を主張していたものと考えられる。

本事案の検討ポイント

本事案で考えるべきことは、①事実をどこで分けるか?②強制処分に該当しないか?③任意捜査として適法か?の3つと考えられます。本事案のように単発の行為ではない一定時間の留め置きが問題となる場合、ここまでは適法だけどこの部分は違法という評価がありうるので事実をどのように捉えるかは極めて重要です。その後に、強制処分該当性、任意捜査としての適法性を考慮すべきです。

事実をどのように捉えるか?、事実をどこで分けるのか?

これは、判決自体ではなく判決後の下級審で示され始めた考え方ですが、令状の発布請求の前後で、事実を分けて考えるというものがあります。令状発布請求前と後では、被告人の嫌疑の程度が違うからと考えられます。もっとも、令状を請求したからといって当然に被告人に高度の嫌疑が認められるとはいえませんが、一般的に令状の発布を請求できる程度には被告人への嫌疑が高まっていたといえるでしょうし、また、留め置くことの明確な目的が存在するという違いもあるといえます。これは、任意捜査としての適法性の考慮要素である捜査の必要性との関係で、事実を分けて考えているものといえます。つまり、任意捜査の規範との関係で意味が違うものは別の事実として捉えていると考えられます。

ちなみに、強制処分との関係では、捜査の必要性は関係のない事情です。強制処分性は、あくまで重要な権利に対して実質的な侵害・制約があったかで判断されます。本件では、強制処分との関係ではなく任意捜査との関係で事実が分けられ、捉えられていると思います。

ただ、これはあくまで私の考えですのでこれが正しいとは言えない部分があります。しかし、私が言いたいことは、事実を分けてどこまでを1つの事実として捉えるかを考えることは、現実の事案を検討する上で原理的に必要なことでありやるべきことです。そして、その際は、規範との関係で事実の意味を捉えてみるというのは有効な方法であるということです。参考にできる部分はぜひ参考にしてください。

強制処分該当性

強制処分該当性は、個人の意思を制圧し、身体・住居・財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段に該当するかにより判断すると判示されています。私は、この判例は、重要な権利利益に実質的な侵害・制約が加えられたかにより判断することと同義として考え、重要な権利利益に実質的な侵害・制約があるかを検討します。

本事案では、エンジンキーを引き抜いて現場に6時間ほど止め置かれており、これはどのような権利利益にどれほどの権利侵害があったといるかを検討します。

ここは詳細に検討することができる部分です。

例えば、警察官が被告人を押さえつけて物理的に動けなくした又は有形力の行使や警察官の行動・言葉により被告人が心理的圧迫を受け、意思に反してその場に留まり続けなくてはいけなかったというレベルならば、逮捕と同等の侵害があるといえ、身体という重要な権利に強度の侵害あるといえると思います。

それに対して、警察官が被告人を警察署に任意同行するように説得を続け、被告人がエンジンキーを引き抜くことにある程度同意していた場合は、移動の自由との関係で、数時間程度の侵害を受けたと考えることができます。これだと逮捕令状が必要な場合と同等の侵害があったとはいえませんし、権利の重要性や侵害の程度がそこまで深刻ではないといえると思います。

本事案は、後者の事案と近いといえるので、強制処分とは考えられなかったようです。

ここで大事なのは、結論がどちらかではなく、強制処分該当性の判断をするときの具体的な視点を自分が持てるようにすることです。

任意捜査としての適法性

任意捜査として違法でないかの判断基準は、必要性、緊急性なども考慮した上で、具体的状況の下で相当といえるかという判断基準です。ここでいう必要性は、捜査の必要性のことであるのが重要ポイントです。そして、本事案での捜査と被告人の侵害利益を比較衡量して違法・適法の結論を出していきます。

前述のように、警察官の令状発布請求の前後で、事実を分けて、検討してみたいと思います。

令状発布請求前は、対象の嫌疑としては、被告人の挙動が不審であり、覚せい剤取締法違反の前科が4犯あることという事実から一定の嫌疑が認められ、任意同行後に尿の任意提出を求めるという捜査の必要性はある程度認められるといえます。しかし、被告人は本事案では明確に拒否し続けたために、任意同行に応じる見込みはないことが明らかであり、そうであれば、任意同行は文字通り任意であり強制できないものなので、留め置きには捜査としての必要性がないと考えられます。捜査としての必要性がないにも関わらず、被告人の移動の自由を数時間も侵害したことは、相当性が認められず、任意捜査として違法であったといえます。

次に、令状発布請求後は、対象の嫌疑としては、前述の一定の嫌疑にプラスして現場の警察官が令状の発布が必要であると判断し、実際に令状の発布を請求していることを考えると令状請求前より若干高度な嫌疑があるといえると思います。また、令状が発付されれば、その後に被疑者を確保して強制的に採尿を求めることができるので、被疑者の所在確保をするために現場での留め置きをする必要性はあるといえます。これに対して、被告人の移動の自由を令状の発布から執行まで制限することには相当性が認められると考えられると思います。したがって、令状発布請求後の止め置きは任意捜査として適法であるといえます。

まとめ

判例100選から司法試験受験生がどのような学びを得るかですが、それは、規範はすでに知っていると思いますので、規範との関係での事実を評価する視点やどこまでの事実を1つの事実と考えるかといった事実認定・当てはめ部分の知識であると思います。これからもそのような知識を紹介したいと思います。

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