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令和5年予備試験憲法③参考答案

目次

原告

Xは、自らがインタビューした乙(元甲社の従業員)が、甲から企業秘密を漏洩したとして損害賠償請求を提起されたため、証人尋問に呼ばれたが、民事訴訟法197条第1項第3号の職業の秘密に該当するとして証言を拒んでいるところ、職業の秘密とは、その事項が公開されると、当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいうと解されるところ、報道関係者の取材源は、一般に、公開されると報道関係者と取材源となる者との信頼関係が損なわれ、将来の円滑な取材活動が妨げられるおそれがあるため、取材源の秘密は職業の秘密に当たると考えられる。
しかし、職業の秘密に該当したとしても、憲法上の権利としての取材源の秘匿と民事裁判を公正に行なう利益を考慮しなければ、保護に値する秘密として証言拒絶が認めれるかを判断できないため、憲法的利益衡量を行なう必要がある。
Xのようなフリージャーナリストが独自に調べた内容をネットメディア等で発表することは、国民の知る権利に奉仕することは記者クラブに所属する大手メディアと同様であり、Xの活動も憲法21条1項による報道の自由として保障され、また、報道内容を正しいものとするため不可欠の取材の自由に関しても保障されるものである。
そして、Xが乙を被告とする損害賠償裁判において、乙とのやりとりを証言することは、Xと乙との信頼関係に深刻な悪影響があり、さらに、Xの今後の取材活動に多大な悪影響があると想定されるため、Xの取材の自由に対する制約が認められる。
もっとも、乙が本件民事裁判で自己が受けた損害を回復したいと考えることは、裁判を受ける権利が憲法上保障されていることに鑑みても、重要なことであり、Xの取材の自由と乙の民事裁判で自己の損害を回復する権利は、憲法上において共に尊重されなければならない。
そこで、当該報道の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、当該取材活動の態様、将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容、程度等と、当該民事事件の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、当該民事事件において当該証言を必要とする程度、代替証拠の有無等の事情を比較衡量するべきである。

まず、Xの取材源の秘匿の利益について検討する。
SDGsに積極的にコミットしているとされる甲社が環境破壊に加担しているという疑惑は、社会一般にとって関心のある重要なニュースであり、公共の利益に関する報道内容であり重要と言える。

動画サイトで動画を投稿するという報道方法は、若者はテレビよりもインターネットを見るようになっており、動画サイトのようなスタイルのジャーナリズムは社会での重要性が増していき、その数も今後いっそう増えていくと考えられ、現在の社会にとってますます重要となると考えられる。

このような重要な報道活動を行っているXが、証人尋問に呼ばれると今後のメディアの取材活動が難しくなり、特にフリージャーナリストは記者クラブに属していないので情報の取得ルートがいっそう制限され活動が困難になるおそれが考えられる。

甲の民事裁判に関する利益としては、甲から乙への金銭賠償請求であり社会全体の公共の利益が関係するものではないため、さほど重要性はない。

したがって、Xの取材源の秘匿の利益は、甲の民事裁判を行なう利益よりも優越し、保護に値する秘密として証言拒絶が認めれる。

被告の反論

反論1

報道機関の取材の自由は、尊重されるべきとしても、原告は、記者クラブにも属していないフリージャーナリストであり、取材の自由の保障の程度は低く、公正な裁判を迅速に行なう利益との関係では、重要性が劣後するはずである。

反論2

Xは、乙の工房に通い詰めたばかりか乙が家族と住む自宅にまで執拗に押しかけ、甲の環境破壊を黙認するような態度が世間に知れたら、乙の経営する工房に悪影響があるとほのめかすような過激な取材をしており、このような取材活動を行っているXには取材源秘匿は認められない。

反論3

まず、甲には正当な民事裁判を受ける権利が保障されており、そして、Xの動画は反響を呼び、各マスコミの後追い報道が起きるような状況となっており、乱開発による森林破壊に加担したとして甲の商品の不買運動が起きている。そのような社会関心事に関する裁判であるから公正な裁判をする必要性は極めて高い。
また、甲の受けた多大な損害を回復するためには、甲が裁判を受けることは現実的に必須であり、甲が民事裁判で回復すべき利益は大きい。
次に、Xを証人尋問することについて、事実としてXが乙を取材し、Xは、乙は甲がC国から原材料を輸入していると語っているインタビュー動画を作成、投稿しているため、Xに事情を聞くことは意味があるといえ、また、民事訴訟において証人が虚偽の証言をすると偽証罪が成立する可能性があり、証人尋問はXに法廷で真実を証言させるために有効な方法であり、証人尋問と同等の効果を上げる証拠方法は考えにくいので、Xを証人尋問する必要性・不可欠性があるといえる。
したがって、甲が本件民事裁判を受ける権利は、証人尋問によりXが受ける不利益を上回るものである。

自身の見解

反論1に対して

Xのように、記者クラブに属さずにフリージャーナリストとして言論活動を行なうというメディアは、組織に縛られて活動するジャーナリストとは違った側面から取材活動ができるという重要な意義がある。そして、Xは、動画サイトにて取材した内容を発表し、若い世代から注目されインフルエンサーとして認識され、ノンフィクションの著作を発表するにいたったという経歴の人物であり、これからの社会にとってメディアの一角を担う有用な人物であり、Xは、実際に、マスコミ各社に先駆けて甲社に関するスクープ動画を上げることに成功している。これらを考慮すると、Xのようなメディアの重要性は、国民の知る権利との関係で従来のメディアに劣るものとはいえない。
したがって、公正な裁判を受ける権利との関係でも劣後した基準を用いる必要はなく、原告の主張する比較衡量の基準を用いるべきである。

反論2に対して

Xは、記者クラブに参加できず、それでも意味ある報道活動をしようと思うのであれば、ただ待っていても情報はもらえないのであるから、執拗な取材をしてしまっても仕方がないともいえる。また、一般の刑罰法規に触れるレベルの取材ではなくあくまで執拗な取材と言いうる程度である。さらに、Xは、乙が特定されないように動画に加工を施したり取材対象者にも一定の配慮はしている。

反論3に対して

本件は刑事裁判ではなく民事裁判であり、裁判の重要性は一般論としては刑事裁判には劣ると考えられる。
また、原告甲と被告乙との裁判において、甲がC国から原材料を輸入していることを乙が動画サイトでしゃべったのかが争点となっていると考えられるところ、これは、あくまでも乙の個人的責任を追求するための裁判であり、甲が原材料を森林の乱開発で問題となっているC国から輸入したという社会的関心事とは分けて考えるべきである。さらに、甲から乙への損害賠償請求訴訟が認められることは、甲社の利益にこそなれ、SDGsという社会的関心には逆行するものである。したがって、本件裁判は、あくまでも甲の損害を回復するためのものであり、裁判の結果に社会的意義や影響があるとは言い難い。

また、甲がC国から原材料を輸入していることを乙が動画サイトでXにしゃべったとしてもそれだけが原因で甲に損害が生じたとはいえず、乙への秘密保持義務違反に対する損害賠償請求により甲の損害の多くが回復されるとは到底考えられず、金銭的にもあまり意味はないといえる。

一方、Xは、主に環境問題について取材を行っており、甲への取材もSDGsに積極的にコミットしている家具メーカー甲がC国での森林の乱開発に加担しているのを告発するという純粋なジャーナリストとしての使命に基づく活動として本件報道及び取材を行っているといえ、Xの報道の価値及び取材源の秘匿の利益の価値は高い。

それにもかかわず、組織的援助のないフリージャーナリストであるX本人が、動画投稿を行った内容について証人尋問に呼ばれるのは、取材の自由への萎縮的効果が非常に大きく、社会的に今後いっそう重要となる組織に属さないメディア全体への取材活動への侵害は大きいといえる。したがって、本件の裁判の重要性は、Xの取材源秘匿の利益ほどは認められない。

結論

よって、当該報道(Xの乙への取材に基づく動画サイトでの報道)は重要な公共の利益に関するものであり、取材の手段、方法が一般の刑罰法規に触れるといった特段の事情はなく、当該民事事件(X社の損害賠償請求訴訟)が社会的意義や影響のある民事事件であるため、取材源の秘密の社会的価値を考慮してもなお公正な裁判を実現すべき必要性が高く、当該証言を得ることが必要不可欠といえる事情はないといえ、Xの取材源については、保護に値する秘密として証言拒絶が認められるといえる。


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